10:30 - 12:00
タイトル | 不確実性の大きな状況下での適応性の高い投資判断:不確実な世界で持続可能な開発を計画するための新しいアプローチ |
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イベント概要 | 従来から、途上国開発における計画策定や投資決定は、将来の見通しに基づく「最適な」選択肢が存在するという前提の下、未来の経済や環境の状況を正確に見通す我々の能力を頼りに実施されてきた。しかし、気候変動影響に開発計画を適応させようとする近年の取組みを通じて、未来を正確に見通すことの難しさへの認識が高まりつつある。我々は、変動する気候と、急速に変化する世界で、大きな不確実性に直面しているのである。 このセッションでは、不確実性の大きい状況下での持続可能な開発計画作りのための新しい考え方と手法に着目する。セッションでは、まず「不確実性下の意思決定」のコンセプトについて紹介し、続いて気候変動影響に対して強靭なインフラ事業の投資決定にこの新しいアプローチを適用した事例について発表を行う。続いて、「不確実性下の意思決定」のコンセプトを、不確実性と複雑さの問題が絡む幅広い課題(例えば、長期低排出開発計画の作成、気候変動影響に強靭で持続的な未来像の検討、危機管理と紛争解決)に応用する可能性に関する発表とパネルディスカッションを行う。 |
キーワード | 不確実性下の意思決定 |
発表者/パネリスト |
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モデレーター |
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主催者 |
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開会・導入(5分)
プレゼンテーション 1(15 分):
不確実性下の意思決定
プレゼンテーション 2(15 分):
不確実性下の頑健な投資決定:ケニア国ムエア灌漑開発プロジェクトの事例研究
プレゼンテーション 3(15 分):
不確実性下の意思決定:持続可能な開発の計画に向けた新しいアプローチ
質疑応答(10 分):
パネルディスカッション(25 分):
閉会(5 分):
我々が今日行う意思決定は、長期的な結果に影響を及ぼす。開発計画の伝統的なアプローチは、未来をできるだけ正確に予測し、その予測に基づき最適なオプションを見つけようというものであった。しかし、気候変動とその他の社会経済要因の不確実性が、そのような作業を極めて困難なものにしている。「大きな不確実性下の意思決定(DMDU)」と呼ばれる新しいアプローチが、この問題に対応するための革新的な方法を提供してくれる。
DMDUアプローチは、まず取り得る戦略やオプションを洗い出すことから始め、これらの戦略やオプションを、考え得る多くの(時には膨大な数の)将来シナリオの下でストレス・テストする。これによって、最も堅固な、または最も脆弱性の少ない戦略/オプションを見つける、或いはそれらについての議論を喚起することができる。Deltares社は、このアプローチにDynamic Adaptive Policy Pathwayという手法を統合することで、不確実性下において、時間軸に沿ってどのような順序(経路)で意思決定をしていけば良いか検討する手助けとなることを紹介した。
世界銀行が紹介したケーススタディでは、このアプローチをコロンボ首都圏の都市開発プロジェクトに適用し、湿地保全が、湿地の生態系サービスを失うことで後悔するリスクを大幅に減少させることができることを示した。JICAが紹介したケニアの灌漑プロジェクトのケーススタディは、このアプローチが将来の不確実性に対して堅固な対策オプションを明らかにする力があることを示した。
DMDUアプローチの適用は、適応策プロジェクトに留まらない。AFDは、このアプローチを使って、従来の決定論的な(また還元主義的ともなり得る)開発計画アプローチからのパラダイムシフトを促し、将来の不確実性に対して、より十分に備え、プロアクディブな組織になろうとする取り組みを紹介した。
DMDUに関してよくある批判には、複雑すぎる、分析を行うための十分なデータが無い、といったものが含まれる。また、気候変動の影響は将来現れるため、このアプローチによって特定された戦略や対策の効果を実証することが難しいという問題もある。開発実務者やパートナー国のステークホルダーの間で、伝統的な「予測して行動を起こす」アプローチとの比較における、DMDUアプローチの必要性、有効性、実用性について意識を高めることが、そのような批判を克服する一助となり得る。DMDUは、意思決定の設計におけるマインドセットの転換を促すことから、国レベルから地方レベルに適用スケールを変えることが可能で、ステークホルダー共同のモデル、ストーリー構築を含み、必ずしもデータを大量に要するモデルに依存することはない。
参加者は、幅広いステークホルダーの間でDMDUアプローチに対する認識と理解を高めていくことが必要という見解で一致した。これを促進する方法のひとつとして、このアプローチを具体的なプログラムに適用することで、その利点を明示することが挙げられる。さらに関心あるステークホルダーにDMDU学会に参加することを奨励することも一案。同学会では、研究者と実務者が協力して、この手法をさらに発展させ、この課題への取り組みを推し進めようとしている。もう一つの方法は、COP、IDFC気候資金フォーラム、気候サミット等の様々な道標的イベントにおいて、またはその合間に、より多くの金融機関を巻き込んだDMDUの議論を行っていくことである。
独立行政法人 国際協力機構(JICA)気候変動対策室 佐藤一朗
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