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イベントレポート問われる各国の行動と実践 ―タラノアの精神が示したものー

©Photo by IISD/ENB | Kiara Worth外部リンク

2018年1月から実施されたタラノア対話は、12月2日~15日に開催されたCOP24(UNFCCC第24回締約国会議)をもって幕を閉じました。ポーランド・カトヴィチェのCOP24会場では、およそ1年間にわたり実施された「準備フェーズ」の取りまとめと、各国の閣僚や政府高官などによる「政治フェーズ」のタラノア対話が実施されました。一連の会合にはアントニオ・グテーレス国連事務総長をはじめ、歴代のCOP議長、ホーセン・リーIPCC議長、各国の専門家・閣僚・政府高官など総勢200人超が参加しました。パリ協定実施指針(ルールブック)の交渉が大詰めを迎える中、タラノア対話への高い関心が示されたといえるでしょう。

これまでの「国際交渉」とは一線を画す新たな試みとして実施されたタラノア対話は、非政府主体を広くプロセスに巻き込むと共に、各国の取り組みや目標などについてお互いの理解を深めるための舞台となりました。

タラノア対話の真の成果は、2020年までの各国NDC(温室効果ガス削減目標)の提出・更新において、各国の目標(野心)が引き上げられたかどうかで明らかになります。一方で、NDCの提出はゴールではなく、日々影響が深刻化する気候変動問題に対処するための一つの通過点に過ぎません。これからの私たちには、タラノア精神を引き継ぎ、各国・非政府主体が協調的に行動を加速していくことが求められています。UNFCCCによる公式なプロセスが終了した今こそ、継続的な対話のスタートラインに立ったといえるでしょう。

COP24でのタラノア対話の様子

準備フェーズの完了(12月6日)

COPでの準備フェーズ最終会合では、①11月に公表された「タラノア対話統合報告書外部リンク」 の報告、②IPCC 1.5度特別報告書の報告と検討、③COP24で期待されるタラノア対話の成果についての各国意見の受け付けなどが行われ、期間中の政治フェーズの実施に向けた最後の準備を整えました。

COP24に先立ち11月に公表された「タラノア対話統合報告書」には、タラノアポータル外部リンク を通じて集められたインプット(サブミッション)と5月のドイツ・ボンにおける補助機関会合(SB)での準備会合の内容が取りまとめられました。報告書が示唆したのは、世界がタラノア対話へ真摯に取り組む姿勢でした。

  • タラノアポータルを通じて473の多様なストーリー(締約国から44、非国家主体から429)が共有された(10月末集計結果)。
  • 5月の補助機関会合(SB)で開催されたタラノア対話では、305(締約国から207、非締約国主体から98)の多様なストーリーが共有された。
  • 準備フェーズ中に、世界各国で90以上のタラノア対話イベントが開催された。

日本においても、日本版タラノアポータル「タラノア・JAPAN外部リンク」 の設置を通じて、様々なステークホルダーによる27のストーリーが共有されました。同ポータルサイトを通じて集められた取り組みは、日本政府によるUNFCCCへの第2回サブミッションの一部として提出されると共に、COP24のジャパンパビリオンでも紹介されました。

政治フェーズ(11日~12日)

開会式の後、1年間に渡るタラノア対話のハイライトとして、各国の大臣・閣僚などを含む200人を超えるハイレベルの参加者が21のラウンドテーブルに分かれ、それぞれストーリーを共有しました。外部リンクタラノア対話の主要な問いのひとつ「どうやって行くのか」に焦点を当て、限られた時間の中ではあるものの、タラノア対話の精神にのっとり互いの立場を理解・尊重し学びあう形で建設的な対話が進められました。

それぞれのラウンドテーブルで語られたストーリーは、各国におけるタラノア対話の成果、IPCC1.5度特別報告書の内容の評価(重要なメッセージを発している、今すぐ行動を起こすことが必要など)、各国政策の実施内容と直面した困難(再エネへの移行、脱石炭、最新技術への投資など)、今後の目標とそれに向けた取り組みの展望(長期的視点が重要、高い目標の設定と達成、公正な移行など)など、多岐に渡りました。フランク・バイニマラマCOP23議長(フィジー首相)は、こうしたハイレベルでの対話が実現したことこそが大きな成果であったと語っています。

ここからが始まり

脱炭素社会への移行のための教訓やベストプラクティスをお互いに学びあい、他国の状況をより良く理解し協力へ繋げていくために、タラノア対話が国際交渉とは別トラックとして設計され実施されたことは非常に貴重な機会であったといえます。また、タラノア対話の「我々は今どこにいるのか」「どこへ行きたいのか」「どうやって行くのか」という3つの問いかけは、各国がそれぞれの取り組みや目標、そしてその道筋に対して、共通の枠組みの中、真摯にストックテイクを実施するための重要なきっかけを作りました。さらに、非政府主体の参加を歓迎・促進することを通じて、すべてのステークホルダーが協力して気候変動問題に立ち向かうことの重要性や非政府主体の果たす役割が、広く認知されることとなりました。

一方で、並行して実施されたパリ・ルールブックの交渉では、最後まで意見が分かれ、合意に至らなかった議題も少なからずありました。交渉官の多くがタラノア対話にも関わっていたことで、交渉の現場でも「タラノア精神」に基づく歩み寄りがいくつも行われたことは想像に難くありませんが、すべてのギャップを埋めることは決して容易ではないことが改めて示された結果となりました。

今後の課題は、交渉外の対話で大きな成果を挙げたタラノアの精神を、どのように利害関係を含む様々な交渉の現場へと橋渡ししていくのか、さらにはパリ・ルールブックの実施の現場につなげていくのか、ではないでしょうか。特に、タラノア対話からの教訓を2023年のグローバル・ストックテイクに活かすことが重要です。パリ・ルールブックに示された実施手法はタラノア対話とは大きく異なりますが、その目的は「野心引き上げ」ということで合致しています。グローバル・ストックテイクが、緩和目標や支援のギャップの特定などによる批判の場ではなく、気候変動問題に対し各国が全力で取り組むべき問題であることを改めて認識し、世界全体として実際の野心引き上げに資する、より建設的なプロセスとなるためにも、タラノア精神を忘れずに取り組むことが重要です。

現在、各国は2020年のNDC提出・更新の準備を進めています。UNFCCCのイニシアティブによるタラノア対話プロセスの終了により、1年間に渡り積み上げてきた活動の成果が反映されなかったり、活動が下火になってしまうことが何よりも危惧されます。タラノア対話が一過性のイベントとして終わるのではなく、これまでに高まったNDCの「野心引き上げ」に対する機運を継続し、さらに高めていくことが重要です。12月13日に開催された「政治フェーズ」の閉会式では、ミハウ・クリティカCOP24議長が「Talanoa call for action外部リンク」というキーメッセージを発表する形で布石を打ち、COP決定(1/CP24)では、タラノア対話に寄せられた各主体からのインプット、並びにタラノア対話で得られた成果を、各国NDCsの準備と2020年以前の実施、野心を促進するために考慮するよう呼びかけています外部リンク。これを実践するためには、今後も各国において定期的・継続的なステークホルダーとの対話の実施や、UNFCCCによる継続的なイニシアティブである「グローバル気候行動のためのマラケシュ・パートナーシップ外部リンク」の活用など、非政府主体の活動をさらに後押しする取り組みが求められます。

タラノア対話が終了した今こそが、政府・非政府主体の本気度が試されているのではないでしょうか。