2021.11.3 WED

15:00 - 16:30

2021.11.3

気候変動対策としてのNbSとそのマルチベネフィット

環境省

セミナー概要

自然を活用した解決策(NbS)は、マルチベネフィットを産む取組として気候変動の文脈においても注目を集めている。日本は、自然と共生する伝統的な価値観及び科学技術に依拠して、これまで本分野で積極的な国際協力を行ってきた。具体的には、JICAによるEco-DRRに関連する二国間支援や、森林総研による東南アジアでの支援の例がある。
本セミナーでは、気候変動対策として実施されるNbSが生み出すマルチベネフィットについて紹介するとともに、NbSを活用した日本での国際協力を含む取組の中で特に気候変動適応とマルチベネフィットの優良事例について紹介する。さらに、支援の受け手となったアジア太平洋諸国の行政官からの参加も得てNbSを活用した技術協力の有効性、課題等について紹介いただく。

登壇者

  • ・ドロシー・ハー, 国際自然保護連合
    ・平田 泰雅, 森林総合研究所
    ・ピーター・ブラザートン, ナチュラル・イングランド
    ・松尾 茜, 地球環境戦略研究機関

    ▼オンライン参加者
    ・正田 寛, 環境省
    ・阪口 法明, 国際協力機構
    ・ステフコ・ステファノスキ, 北マケドニア共和国
    ・武内 和彦, 地球環境戦略研究機関
    ・石井 晶子, EY新日本有限責任監査法人

セッションサマリー

環境省が主催した本セミナーでは、気候変動対策として実施されるNbSが生み出すマルチベネフィットについて、7名の登壇者らが提供した多様な実例をもとに、その展望や課題について議論が行われた。
IUCNからはNbSに関する最新の動向として、世界標準や資金、新制度などの情報が共有されるとともにNbSの気候レジリエンス構築への貢献について発表があった。JICAと森林総研からは日本の国際協力事例として、マングローブ林やサンゴ礁など沿岸生態系の保全や、日本の治山技術を活用した「森林を活用した防災・減災(F-DRR)」などがその科学的根拠とともに紹介された。JICAを通じてEco-DRRの支援を受けた北マケドニアからは、森林管理による防災の成功事例が共有された。IGESからは生物多様性、気候変動、防災の3分野を統合的に扱うためにNbSが重要な役割を果たし、SATOYAMAイニシアティブやEco-DRRの事例、30x30実現のためのOECMの活用、AP-PLAT内に公開されたNbS教材について紹介があった。EY新日本有限責任監査法人からは日本の適応技術を活用したビジネスを通じて、海外での気候変動適応に貢献する取り組みを紹介し、経済産業省が後押しする民間セクターにおける適応ビジネスがNbSとしても有用である点が紹介された。最後に英国から、国内適応政策にNbSが組み込まれている点、NbSの成功には証拠に基づいた計画とコミュニティの参画が重要である点が強調された。
パネルディスカッションでは、NbSによるマルチベネフィットの達成に必要な点や課題が論じられた。M&Eを通じた科学的データに基づく順応的管理、関連省庁間の連携、地域コミュニティの巻込みなどが重要な点として指摘された。また、国際協力の文脈でNbSを推進するためには、各ステークホルダーに応じた能力強化が重要である点、技術や資金の柔軟な活用、民間セクターへの公的資金の注入などの必要性についても議論された。また多くの登壇者からグレーインフラとグリーンインフラを対立させるのではなく、そのベストミックスを目指すべきであるという共通の認識が示された。
最後に英国から、気候変動に関してはネットゼロに向けて様々な拘束力のある合意がなされる中、「自然」に対しても同様の取り組みが必要であり、来春のCBD-COP15はそのよい機会となると、UNFCCC-COP26からCBD-COP15にむけての抱負が示され、閉会した。

メッセージや成果

•NbSの効果的な実施のためには、科学的根拠に基づく順応的管理、実践者としてのコミュニティの参画促進と能力強化が必要である。
•グリーンインフラとグレーインフラは対立するものではなく、ベストミックスを目指すべきである。
•民間セクターへの公的資金の注入を含めた、技術や資金の柔軟な活用がNbSの規模拡大には不可欠である。
•国際協力におけるNbS推進には、各ステークホルダーのニーズに応じた能力強化が重要である。
•NbSのもつマルチベネフィットを活用するためには、気候変動だけでなく、生物多様性、防災など他分野のアジェンダの中にもNbSが統合される必要がある。