2021.11.8 MON

17:00 - 18:30

2021.11.8

衛星データを活用した、オールジャパンで取り組む持続可能な熱帯林・熱帯泥炭地管理

住友林業株式会社 / 株式会社IHI

セミナー概要

熱帯林や熱帯泥炭地は、膨大な炭素を貯蔵する他、地球の水循環や生物多様性を保全するなど、地球規模の気候変動に大きな影響を及ぼす。しかしその価値は適正に評価されておらず、乱開発や火災はCO2の排出だけでも年間22~37億トン(世界排出量の6~11%に相当)と言われ、さらに水循環のバランスが崩れることで異常気象の増加をももたらす。広大な森林を適切に管理するためには、衛星観測によってその現況を高精度・高頻度で把握・評価することが不可欠である。
住友林業とIHIは、持続可能なビジネスの形で熱帯林や熱帯泥炭地を保全することを通して気候変動対策に貢献するため、2021年に提携を開始。住友林業が構築した世界で唯一の熱帯泥炭地管理モデルを、IHIの持つ最先端の衛星観測技術と組み合わせることで、世界中に普及させる技術の構築に取り組んでいる。
この取り組みに対し経済産業省は、「衛星の観測情報の共有スキーム(だいち、いぶき、しずくなどを活用)」を通じて、熱帯泥炭地管理技術の発展や世界的普及を支援。オールジャパンの技術や知見を結集し、熱帯林や熱帯泥炭地の持つ価値を最大限活用することで、地球規模の気候変動対策に貢献していく。さらに将来は、世界初の取り組みとなる、赤道軌道域を常に周回する衛星コンステレーションの打ち上げによって、世界の熱帯林・熱帯泥炭地を常時観測可能とする。
本セミナーでは、このような経済産業省・住友林業・IHIの取り組み・知見・技術について紹介すると共に、衛星観測データの活用、熱帯林・熱帯泥炭地の保全、それらを通した気候変動対策について、産・官・学の先駆者によるディスカッションを通して、その重要性を世界に発信する。

登壇者

  • ・大崎 満 北海道大学 名誉教授
    ・笹部 茂 住友林業株式会社 代表取締役 執行役員副社長
    ・シスファ シルシギア ワナ・スブル・レスタリ (住友林業グループ)
    ・マイケル アレン ブラディ 国際林業センター(CIFOR) 主席研究員, チーム長
    ・ヌル マスリパティン インドネシア環境林業省 シニアアドバイザー

    ▼オンライン参加者
    ・並木 文春 株式会社IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 副領域長

セッションサマリー

本セッションでは、住友林業とIHIの協業による革新的な熱帯林・泥炭地管理協業プロジェクトである「NeXT FOREST」とその世界展開についてご紹介しました。会場ではアフリカ・アジア・南米といった様々な国からの観客で満席になり、森林を活用した気候変動対策への世界的な関心の高さを改めて示す場となりました。
北海道大学・大崎名誉教授からは、泥炭地が気候変動対策に寄与する大きなポテンシャルを有していること、およびポテンシャル評価のためのモニタリングの重要性について解説し、熱帯軌道を周回する世界初の衛星コンステレーション構想「iEOS」(*1)を紹介しました。
住友林業・笹部副社長からは、江戸時代にさかのぼる同社創業以来の歴史と今に根付く「住友の事業精神」を紹介しました。また、現在は川上から川下まで、すなわち森林資源管理から木造住宅事業まで、木に関わる幅広い事業展開を行っていることを説明しました。
IHI・並木航空・宇宙・防衛事業領域副領域長からは、同社が世界に誇る高い宇宙開発・利用技術やセンシング技術について、様々な実例を交えて解説しました。またこれまで培ってきた技術を最大限活用し「自然と技術が調和する気候変動対策」を推進することを紹介しました。
WSL(住友林業グループ)からはインドネシア現地で働くシスヴァ社員が、同社が世界で唯一成功させた熱帯泥炭地の持続的な「貯水型管理」について、そのカギを握る地下水位管理にフォーカスして解説しました。さらに、泥炭地管理技術を世界に普及させるために、IHIとの協業を通じた熱帯域のリモートセンシングと高度なモニタリング・解析が不可欠であることに言及。最後に、経済と環境が両立し、気候変動対策に大きく貢献する森林の次なる在り方「NeXT FOREST」を紹介して本セッション全体を取りまとめました。
コメンテーターを務めたCIFOR(*2)のマイケル・ブラディ博士からは、WSLの植林事業について「住友林業における別子銅山と同様に開始当初は多くの失敗や批判にさらされた。しかしそれらを乗り越えた現在は、他に類を見ない成功事例と自信を持って言える」と称賛がありました。そして住友林業・IHIの今後のイノベーティブな取り組みに期待を寄せました。
会場からは、韓国とナイジェリアからの参加者より住友林業の発表に対して、日本・インドネシア政府との協力やサポートの有無について質問がなされ、住友林業・笹部副社長からインドネシア政府とは泥炭地管理技術の構築についてパイロットプロジェクトの形で協力関係にある旨を回答しました。
*1: International Equator Observation Sensing Network
*2: Center for International Forestry Research

メッセージや成果

熱帯林・熱帯泥炭地は大量の炭素を貯蔵し、気候変動対策に不可欠な存在です。しかし乱開発や火災により、日本の排出量の2~3倍に相当する二酸化炭素が毎年放出されており、熱帯林・熱帯泥炭地の適切な管理によってこれを抑制することが喫緊の課題です。
「NeXT FOREST」では、住友林業が培ってきた森林管理ノウハウを、IHIの持つ高い観測・分析技術とのコラボレーションにより世界に広く展開することを通して、気候変動対策に貢献していきます。
また、熱帯林・熱帯泥炭地は生物多様性やグローバルスケールでの水循環の保全にも大きく寄与しています。「NeXT FOREST」は、炭素蓄積量のみに留まらず、これらの森林の様々な価値を正当に評価することを目指しています。

住友林業笹部副社長
住友林業笹部副社長
IHI並木航空・宇宙・防衛事業領域副領域長
IHI並木航空・宇宙・防衛事業領域副領域長
(左から)WSL(住友林業グループ)加藤社長、IHI志佐宇宙開発事業推進部部長、CIFOR Michael Brady博士、インドネシア環境林業省 Nur Masripatin博士、住友林業笹部副社長、北海道大学大崎名誉教授、WSL Sisva Silsigia社員
(左から)WSL(住友林業グループ)加藤社長、IHI志佐宇宙開発事業推進部部長、CIFOR Michael Brady博士、インドネシア環境林業省 Nur Masripatin博士、住友林業笹部副社長、北海道大学大崎名誉教授、WSL Sisva Silsigia社員

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