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10:30-12:00

2℃達成に向けた日本・中国・韓国の共同研究と気候政策

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)、中国国家発展改革委員会能源研究所(中国)、Institute for Global Sustainability(韓国)

イベント概要

日中韓の三ヵ国は世界GHG排出量の約30%を占め、それらを大幅に削減するための強力な技術力と資金力を持っている。

各国を代表する3つの研究機関(IGES、IGS、ERI)を中心に構成される国際的研究ネットワーク:「日中韓気候政策研究フォーラム」は、アジアにおける2℃目標達成のために共同研究の重要性と各国の気候政策の調和の必要性を訴える。

本イベントにおいては、アジアにおける2℃目標達成のための資金メカニズムや具体的政策、特にはアジア排出量取引市場(ETS)の実現可能性や石炭火力からの脱却可能性について議論する。

プログラム

  1. 開会挨拶1
    シャムシャド・アクタール(Dr. Shamshad Akhtar)国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)エグゼクティブ・セクレタリー
  2. 発表1
    丁太庸(Dr. Tae-yong Jung)韓国延世大学校 教授
  3. 開会挨拶2
    韓昇洙(Dr. Seung-soo Han)元韓国国務総理
  4. 来賓挨拶
    小林正明 日本国環境省 地球環境審議官
  5. 発表2
    田村堅太郎 IGES気候・エネルギー領域 エリアリーダー
  6. パネルディスカッション

    周大地(Dr. Zhou Dadi)中国国家発展改革委員会エネルギー研究所 前所長
    浜中裕徳 IGES理事長
    丁太庸(Dr. Tae-yong Jung)韓国延世大学校 教授
    田村堅太郎 IGES気候・エネルギー領域 エリアリーダー

    [議長/モデレーター]
    P. R. シュクラ(Prof. P. R. Shukla)IPCC第三作業部会共同議長
    西岡秀三 IGES研究顧問

セッションサマリー

P. R. シュクラIPCC第三作業部会共同議長及び西岡秀三IGES研究顧問の共同議長により行われたサイドイベントの結果は以下のとおり。

開会挨拶1

アクタールUNESCAPエグゼクティブ・セクレタリーによれば、アジアの3つの巨人である日中韓三カ国によるこうした対話の機会はとても重要なものである。アジアの経済大国による同盟は同地域における温室効果ガス排出削減の中心的な役割を担う。気候変動による経済への影響は非常に大きく、このための研究協力が不可欠である。情報と知識の共有、共同研究と研究成果は、各国の国境を越えて広く地域に裨益する。共同研究のテーマとして重要なのは、①国境を越えた気候変動の含意、②適応、③2030開発アジェンダなど。さらに、地域における炭素管理を涵養する上で、共通の炭素価格付け(Carbon Pricing)の枠組みを作っていくことが重要。UNESCAPとしては3カ国の重要な協力を支援していきたい。

発表1

丁太庸 韓国延世大学校教授は、どのように排出量取引の地域枠組みを構築するかが重要であり、炭素価格付け(Carbon Pricing)は重要なシグナルの一つであるとした。現在、各国がそれぞれに行っている排出量取引の枠組みをどのように地域版にスケールアップするのか、また各国の仕組みが実際に温室効果ガス排出削減のためのローカルな取組に結びつくようどのようにスケールダウンするのかが課題。このプロセスにおいて、ローカルな環境問題と気候変動に同時にアプローチし共便益(co-benefit)を見つけ出すことが重要。さらに、研究成果を政策決定者に向けた言葉で発信することが重要。また、JCMをはじめとする、バイあるいはマルチの資金枠組みも重要な課題。また、日中韓3カ国にとらわれず、隣人であるASEAN諸国と協働していくことが大事。

開会挨拶2

韓昇洙元韓国国務総理によれば、日中韓3カ国のGDPの合計は世界全体の1/5を占める。また、3カ国はすべて世界の温室効果ガス排出ランキングの10位以内に入っている(中国1位、日本5位、韓国7位)。北東アジアは実際のところ炭素強度が高い地域(carbon intensive region)だといえる。持続可能な開発目標(SDGs)の目標13は気候変動で、これにしっかりと取組む必要がある。残り20年しか猶予期間がない炭素予算(carbon budget)にも注意を払う必要がある。今すぐに真剣な取組みを実施しないと、炭素予算はあっというまに使い尽くされる。この点で、低炭素研究は、3カ国が今日で取組む必要がある時宜を得た課題だといえる。同氏はまた、研究を通じた協働が、いずれ政策的な協働に結びつけばとの期待を示した。

来賓挨拶

小林正明 日本国環境省地球環境審議官は、日中韓の先導的な3つの研究機関による研究協力について、平均気温の上昇を2度以下に抑えるための共同研究の重要性を強調した。また、緩和のみならず適応の取組みも重要とし、10日前に策定された日本の国家適応計画の概略を紹介した。

発表2

田村堅太郎 IGES気候・エネルギー領域エリアリーダーは、本地域において、エネルギー・電力セクターの脱炭素化が共通で重要な課題と述べた。中国、日本、韓国は、石炭利用について国内的に及び国際的に重要な役割を果たすことができる。石炭依存の体質から、石炭依存度を下げていく、あるいは完全に石炭利用を終わらせる、こうしたエネルギー供給プランは本地域における重要な共通研究課題。この石炭依存からの脱却の方向性は、近年OECDによる新たなエネルギー投資ルールや、米中首脳談話(China-US Presidential Decree)などによって強化される傾向にあるとした。

パネルディスカッション

周大地 中国国家発展改革委員会エネルギー研究所前所長によれば、3カ国による政策対話はとても重要。第1に、3カ国を含むアジアは経済活動において世界第1位であるが、気候政策の分野におけるアジアの発言力は未だに小さい。地域の政策対話と協同研究は、地域における議論を豊かにし、世界におけるアジアの発信力を高める。第2に、新しく低炭な社会への移行、すなわち低炭素開発において少なくとも中国はイノベーションの中心でありたいと考える。このために、たとえば革新的で効率的な技術の開発のための3カ国の協力が欠かせない。低炭素社会への移行のためには、効率の追求では足りず、イノベーションが求められている。これは、インドや他の国々にも裨益する。対話と共同研究は、これらのことに大きく貢献する、と述べた。

丁太庸 韓国延世大学校教授は、協同研究と政策対話は3カ国のためだけではなく、アジアのため、さらにはアジアを超えた世界に貢献できるとした。IPCCの最初の報告書が出たとき、リードオーサーを務めたアジアの専門家は立った4人だった。それが今では多くのアジアの専門家がIPCCのプロセスに参画するようになっている。地域の排出量取引に関する研究は、約束された研究分野のひとつである。田村氏が指摘した石炭火力発電の問題とも関連している。

浜中裕徳 IGES理事長は、共同研究のアジェンダについて、先の発言者が挙げた課題に加えて「情報開示のためのルール作り」の重要性を指摘した。

フロアとの質疑応答

マレーシアからの参加者が、「アジアではエネルギー・電力需要の増加に伴い石炭の利用が増加している。CCSや他の技術的な側面はどうなっているのか?」との質問に対し、田村エリアリーダーは、「開発と気候の両方の側面を見る必要がある。現時点での万能な処方箋は存在しない。」と述べた。また、周前所長は、「天然ガス利用は一時的なもの。長期的にはカーボンニュートラルになる必要がある。方向性ははっきりしている。」と述べた。
また、香港からの参加者は、「低炭素あるいはゼロカーボンに向けた取組には多くのチャンスがあると思う。」とコメントした。

キーメッセージ

セッションの総括にあたり、P. R. シュクラIPCC第三作業部会共同議長は、「低炭素社会への転換は必要であり実際に起こりつつある。多くの利用可能な技術がすでに存在し、私たちの投資を待っている。研究はこれらの課題に向き合いそして解決策を導くことができると信じている。この他に費用効率、リスク管理、ファイナンスといった研究にも共同で取組む必要がある。」と述べた。また、「我々の共同研究チームは緊密に連携し、しっかりと成果を出し、来年のCOPに戻ってくることを約束する」との決意を示した。

イベント風景

報告者

公益財団法人地球環境戦略研究機関 大塚隆志・鈴木暢大・石川智子