Mon 30 November Mon 30 November
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13:30-16:30

アジア大洋州における災害リスクファイナンス及び保険制度の展開

独立行政法人 国際協力機構(JICA)、世界銀行

イベント概要

大洋州やフィリピン等のアジア・大洋州における災害リスクファイナンス及び保険の役割、現状と課題、そこから見える将来の方向性等について有識者が発表する。さらに災害リスクファイナンスの政策的動向やインスツルメンツの展望について、パネルディスカッションを行う。

プログラム

  1. 開会・セミナー背景
    若林仁 国際協力機構(JICA)東南アジア・大洋州部東南アジア第5課 課長
    John Roome 世界銀行気候変動シニアディレクター
  2. フィリピン災害リスクファイナンス~フィリピンの災害レジリエンス構築に向けて:災害リスク削減・ファイナンスのための新たな戦略~
    Roberto B. Tan フィリピン共和国財務省財務官
  3. アジア・太平洋における水害リスクと災害リスクファイナンス・保険の役割:トンガの事例
    Paula Ma’u トンガ王国気象・エネルギー・情報・災害管理・環境・気候変動・通信省次官
    Tatafu Moeaki トンガ王国財務・国家計画省次官
  4. アジアにおける水害リスクの概観:科学の視点から
    Dr. Patricia Ann Jaranilla-Sanchez 水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)リサーチスペシャリスト
  5. サイクロン・台風関連リスクの分解
    西嶋一欽 京都大学防災研究所准教授
  6. パネル・ディスカッション及び質疑応答
    [パネリスト]
    Paula Ma’u トンガ王国気象・エネルギー・情報・災害管理・環境・気候変動・通信省次官
    Robert G. Vergara政府サービス保険システム総裁兼ジェネラルマネージャー(フィリピン)
    Augusto P. Hidalgo フィリピン保険・再保険連合最高経営責任者(フィリピン)
    Dr. Patricia Ann Jaranilla-Sanchez ICHARMリサーチスペシャリスト
    西嶋一欽 京都大学防災研究所准教授
    武藤めぐみ JICAフランス事務所長
    [司会]
    James Close 世界銀行気候変動ディレクター
  7. 閉会
    武藤めぐみ JICAフランス事務所長

セッションサマリー

世銀 ルーム氏

  • 国全体の災害レジリエンスを高めるには、地方政府や家計による事前投資及び事後投資を可能にする金融サービスが重要であり、国家レベルだけでなく、地方政府レベル、家計レベルの異なる金融ニーズに応えるための様々な金融制度が必要である。

フィリピン政府 タン財務官

  • フィリピンでは、災害リスクファイナンス・保険戦略を策定している。同戦略の下、国家レベルでは世銀・JICA等の支援を通じたスタンドバイ・ファシリティ(CAT-DDO、SECURE)を適用、地方政府を対象にした災害リスク保険パイロット事業の実施や、地震及び台風にかかる災害保険を中小企業・家計に提供する可能性の検討等、革新的な取組みを推進している。

トンガ王国 パウラ環境省次官、モエアキ財務・国家計画次官

  • トンガは2014年1月サイクロン・イアンによる被災時に太平洋自然災害リスク保険パイロット・プログラム(PCRAFI)から保険金の給付を受けた。トンガ政府にとってPCRAFIは、被災後迅速な緊急支援・復旧活動に充てる資金を短期間で確保することを可能にした重要な金融制度となったが、一方直面するリスクを評価しそれに見合った補償を選ぶことは技術的に難しく、PCRAFI参加国の中には被災時に保険金給付に至らなかったケースもあった。

ICHARM サンチェズ専門研究員

  • 災害リスク管理にかかる各種戦略・計画は、適切な災害リスク評価に基づいている必要があり、適切な災害リスク評価や同評価のためのリスク指標の設定には、災害データが不可欠。
  • 持続的なデータ・情報管理及び各国が同データ・情報を蓄積し活用するための能力強化が必要とされており、このようなデータ・情報といった公共財の構築・維持管理に国際協力が果たす役割は大きい。

京都大学防災研究所 西嶋准教授

  • 台風・サイクロンにおける災害リスクは、構造物の立地(exposure)、脆弱性(vulnerability)を把握し、風洞実験等を通じてリスク分析を行うことが不可欠であり、フィリピン(台風ヨランダ)とバヌアツ(サイクロン・パム)のケースを通じて被災建物の工学的検証事例を紹介。保険商品開発にあたっても不可欠に情報・知識となる点を強調。
  • ア)被災大国における工学的知見(engineering knowledge)の涵養・主流化、イ)在来知(local knowledge)を活用した建物の強靭化(発想転換)(例:バヌアツの台風避難シェルター)、ウ)ドナー等による資金・技術支援を踏まえた内在的な強靭化への取組みの重要性を指摘。

GSIS ヴェルガラ総裁

  • GSISは公共資産への付保が義務付けられており、フィリピン政府や世銀等と、関心のある地方自治体を対象とした災害リスクプールの形成を通じて、保険料を低減させ、自然災害保険購入に向けた投資家意欲の涵養、市場形成に取組んでいる。

PIRA ヒダルゴ社長

  • 民間部門(企業・家計)における持続可能な災害リスクプールの形成について、IFC等と取り組んでいる。保険引出メカニズムとして被災直後はパラメトリックなトリガーを設定し、一定額の速やかな引出を可能とするとともに、伝統的な損害保険と組み合わせて、被害状況に応じて追加引出額を調整する新たな仕組みの導入を検討中。
  • 事前(ex-ante)に災害リスクを引き下げる/分散させるためのインセンティブとして、保険商品のみならず、災害リスクへの強靭性をパラメータとした信用格付制度の導入可能性など、融資制度においてもイノベーティブなアイデアが検討されている(例:BCM格付)。
  • 国際協力も通じて、産官学連携でデータ構築・共有していく取組みは極めて重要。

JICAフランス事務所 武藤所長

  • BBBの概念の実現に向けて、果たしてどのレベル(頻度、被害規模)の災害にどこまで費用を投じて備えるのかは、各国共通の課題。
  • 高頻度(high frequency)、小被害(low consequence)の災害は予測しやすく、人々の関心も高いが、経済・社会の発展に伴い、低頻度(low frequency)、大被害(high consequence)の災害となると、国・地方政府・家計が必要な対処・投資行動をとるよう促すインセンティブやそれら行動に必要な資金手当を可能とする金融ツール開発での工夫(イノベーション)が必要。

パネル・ディスカッション

  • 災害に対して強靭なインフラ整備については、構造物・非構造物対策の組合せ、優先づけが必要。災害発生後の緊急支援においてクリティカルなのはタイミング(人命第一)。事後(ex-post)の復旧に注力すべきとの意見もあり。
  • 構造物の災害時の脆弱性(vulnerability)の検証を通じて、設計・施工後の建物のパフォーマンスを高めることが重要であり、災害リスクモデル構築にあたっては設計のみならず施工の質の担保が極めて重要。この点は、保険プレミアム設定に資するデータとなるとともに、各国の建設業界における質向上(施工不良回避)にも繋がる。
  • ファイナンス面では民間部門において長期資金をインフラ整備に提供するappetiteは大きいが、長期投資を可能とする金融商品が不足(インフラボンド等)。
  • データ整備について、災害データの共有事例として、東大はアジア18ヶ国、アフリカ8ヶ国のデータを公開している。データ精度を高めるにあたり、現地レベルのデータ提供者の存在が不可欠。actual damage curveデータはなかなか存在しないため専門家による第三者意見として例えば風力を代理指標とするといったことは多いが、質的・量的分析を通じたデータ蓄積を拡充していくことが重要。また、国、地域、都市固有の自然条件や立地条件に応じたデータ整備を通じて、より強靭な災害リスクモデルの構築が可能となる。

キーメッセージ

  • BBBの概念の実現に向けて、どのレベル(頻度、被害規模)の災害にどこまで費用を投じて備えるのかは、各国共通の課題と言える。高頻度、低規模の災害は予測しやすく、人々の関心も高いが、低頻度、高規模の災害となると、国・地方政府・家計が必要な対処・投資行動をとるよう促すインセンティブやそれら行動に必要な資金手当てを可能とする工夫(イノベーション)が必要となってくる。
  • ①災害リスク保険のような金融ツール導入に際して、民間部門の収益性と公共部門の財務持続性のバランスを保つ適切なインセンティブ設計が必要;②科学的・工学的知見に基づく災害リスクデータの蓄積やリスク評価等、適切な災害リスク軽減・管理政策の立案に必要なリソースを、効果的に動員し、生産・維持していくことが重要;③防災から、災害復旧、より良い復興へとシームレスな活動を展開するための資金を動員していく上で、官民連携の取組みが重要。

イベント風景

報告者

国際協力機構(JICA)東南アジア・大洋州部東南アジア第五課 若林仁