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気候市民サミットin京都〜気候危機とIPCCの気候科学・脱炭素革命・自然エネルギー100%〜

(C) 気候ネットワーク, 2018

地球温暖化防止のために活動する全国の市民・環境NGO/NPOのネットワークである気候ネットワーク主催によるイベント「気候市民サミットin京都〜気候危機とIPCCの気候科学・脱炭素革命・自然エネルギー100%〜」が10月20日に龍谷大学で開催されました。

10月8日にIPCCの1.5度特別報告書が公表された直後ということもあり、第一部のセッションでIPCC特別報告書に関する最新の科学的知見が共有されたのち、各分野のリーダーたちが白熱したセッションを展開しました。第二部の分科会は「タラノア対話」として実施され、これからの温暖化対策を語る上で欠かせないキーワードである自然エネルギー100%や脱石炭、環境金融・ダイベストメント・ESG投資などについて、気候変動に立ち向かう市民がそれぞれのストーリーを共有しました。第三部の最終セッションでは、本イベントのまとめとして、目指すべき日本の2050年の脱炭素ビジョンについて、一人ひとりがいかに主体的に取り組むことができるのか、示唆に富んだ議論・意見交換がなされました。

“マインドセットを変え、前向きに主体的に取り組む必要がある”

第1部「IPCC1.5℃レポートから考える日本の気候危機と対策」では、まず江守正多氏(国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長)から、IPCCの1.5度特別報告書の内容について科学的知見から、「すでに地球は産業化以前を基準に約1℃温暖化しており、このままのペースなら2040年前後に1.5℃に到達してしまう」「1.5℃温暖化したときの悪影響のリスクは現在よりも高くなり、2℃温暖化すればさらに高くなる」と解説。今後の取り組みのポイントとして「2030年までの10年間の取り組みが、その後の負担を軽減するうえで、重要な10年になる」「脱炭素の取り組みは大事だが、それを加速させることがさらに大事」という点を挙げました。そして、気温上昇を1.5℃未満に抑えることは自然科学的、技術的、経済学的には不可能ではないが、そのためには投資の増加、政策、イノベーションの加速、行動変容、すべてのアクターが参加する国際協力などが必要であり、逆にいえば、これらが無いと実現は不可能であるという見解を述べました。最後に「1.5℃未満の実現を目指すためには一人ひとりがマインドセットを変え、前向きに主体的に取り組む必要がある」「これを持続可能な社会への取り組み(SDGs)を加速するための良い機会と捉えよう」と、課題解決への道筋について前向きなメッセージが発せられました。

浅岡美恵(気候ネットワーク 代表)は、「異常気象・気候危機と石炭火力発電問題」について報告し、パリ協定発効後に世界で進む脱石炭の動向を紹介したうえで、日本の石炭火力発電に関する政策課題を指摘しました。また、世界の気候訴訟の先駆けとなったオランダ・ハーグ地裁での「Urgenda Climate Case」や、EUの目標引き上げを争点としたEU裁判所の「People’s Climate Case」など、世界で起こっている気候訴訟の事例を紹介し、気候変動抑止における司法の可能性とその要件について解説しました。

続く第二部の各セッションは、2050年の脱炭素社会のビジョン実現に向けた重要テーマである「自然エネルギー100%」「脱石炭」「環境金融/ダイベストメント」の分科会に分かれて「タラノア対話」として実施されました。

セッションA「自然エネルギー100%を実現させる」では、すでに事業採算性を確保しながら脱炭素社会の実現に向けて活動する各主体が登壇。積水ハウス株式会社からは、企業として「環境配慮商品」に自社の競争優位性を見出したことが、その後の脱炭素宣言につながったという経緯や、世界トップの販売実績を誇るZEH(Net Zero Energy House)のビジネスモデルなどが紹介されました。そして国際社会において気候変動対策で遅れを取っているように映る日本のなかで、業界のリーディング・カンパニーとして脱炭素化を牽引したいという力強いメッセージがありました。

人口約1,500人の小規模自治体である岡山県西粟倉村は、人口減少をきっかけに再生可能エネルギー事業の取り組みを開始し、地域の森林資源や補助金を有効に活用することで再エネ事業を軌道に乗せた経緯を語りました。そして、いかに地域の価値を上げるかという視点を持つことで、雇用創出や地域の若者増加などの好影響も生まれているというストーリーが共有されました。温暖化防止に取り組むNPO法人と地元企業との共同出資により設立された「しずおか未来エネルギー株式会社」(静岡県静岡市)からは、市民から出資を募り資金調達を行なった中小規模分散型太陽光発電事業の取り組みが紹介されました。 セッションB「脱石炭の市民運動、新たな展開へ」では、CO2の大排出源であるにも関わらず、2012年以降も50基の新設計画がある石炭火力発電所をめぐる動きについて、全国5地域(神戸・仙台・千葉・袖ヶ浦・横須賀)の市民運動のリーダーが集結し、反対運動だけでなく、市民の声を届けるための様々な取り組みを共有しました。

セッションC「脱炭素に向けたダイベストメントと金融の動向と展望」では、金融業界に期待される気候変動対策について、ダイベストメントの視点、消費者の視点から、世界の最新動向やスピーカー自身の取り組みが共有されました。世界の機関投資家が取り組むダイベストメントの進捗や、市民運動によって金融機関へ脱炭素の働きかけを行っている事例などが共有された一方で、世界と比べて遅れているように見える日本国内の動向について、その課題が指摘されました。特に日本と世界の取り組みギャップが大きい要因としては、情報開示に関する各国政策の違いを指摘しつつも、グローバルに展開されるビジネスの世界においては、そこに甘んじることなく、積極的に世界基準での情報開示を行うことが大事であろうとの見解が示されました。また、いち消費者としてできることとして、環境に与える影響を広く考えて企業や商品を選ぶグリーンコンシューマーや、人や社会のことも考えた倫理的に正しい消費をするエシカルコンシューマーといったライフスタイルが紹介されました。

第3部「2050年脱炭素ビジョンを探る~脱炭素革命の行方~」では、一日を通じて議論された2050年の脱炭素社会に向けたビジョンを総括するパートとして、政策研究者・金融専門家・非政府主体の各スピーカーが今後の長期展望を交換しました。

まず、今年7月に日本で誕生した気候変動対策に積極的に取り組む非政府主体のネットワークである「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative:JCI)」と、そのJCIが10月に開催した「気候変動アクション日本サミット(Japan Climate Action Summit:JCAS)」への言及があり、「脱炭素は、(当たり前に)取り組むものという潮目に変わったように感じられた」と述べ、日本全体を動かすムーブメントを作り出すことへの期待感が語られました。

次に、長期における温室効果ガスの大幅削減と、日本が直面する構造的な経済的・社会的課題の同時解決を目指すための「気候変動長期戦略懇談会」に金融セクターのメンバーが入っていること自体が革新的であるが、さらには長期戦略を政権や経済の変化に影響されないものとして位置づけることが重要であり、政策における強い意思が必要だという視点が共有されました。

最後に、気候変動問題の解決には環境関連の技術革新だけでなく、自動運転・IoT・ブロックチェーンなどの最先端の情報技術革新を組み込んだモデルにすることが必要で、これを通じてビジネスを含めたグローバルでの競争力を確保していくべきだという提言が共有され、一日の幕が閉じられました。

当日の資料は、こちらからご覧ください。
https://www.kikonet.org/event/2018-10-20/新しいタブで開く

当日のプログラム

第1部:IPCC1.5℃レポートから考える日本の気候危機と対策
特別講演「IPCCの最新科学1.5℃報告書のメッセージ」
江守正多(国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長)

報告「異常気象・気候危機と石炭火力発電問題」
浅岡美恵(気候ネットワーク 代表)

第2部:タラノア・セッション〜2050年脱炭素・再エネ100%ビジョンに向けて〜
セッションA「自然エネルギー100%を実現させる」
古屋将太(環境エネルギー政策研究所 研究員)
木村結(原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟 事務局次長)
白籏佳三(岡山県西粟倉村)
服部乃利子(しずおか未来エネルギー株式会社 代表取締役社長)
真鍋弘毅(積水ハウス株式会社)
コーディネーター:豊田陽介(気候ネットワーク)

セッションB 「脱石炭の市民運動、新たな展開へ」
神戸:島村健(神戸大学大学院法学研究科教授)
仙台:明日香壽川(東北大学/仙台港の石炭火力発電所建設問題を考える会)
千葉:小西由希子(蘇我石炭火力発電所計画を考える会)
袖ケ浦:富樫孝夫(袖ケ浦市民が望む政策研究会)
横須賀:鈴木陸郎(横須賀火力発電所建設を考える会 共同代表)
コーディネーター:山本元(気候ネットワーク)

セッションC 「脱炭素に向けたダイベストメントと金融の動向と展望」
藤井良広(環境金融研究機構)
夫馬賢治(株式会社ニューラル)
大石美奈子(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会)
古野真(国際環境団体350.org)
コーディネーター:藤井良広(環境金融研究機構)

第3部:2050年脱炭素ビジョンを探る〜脱炭素革命の行方〜
高村ゆかり(東京大学)
大久保ゆり(自然エネルギー財団)
藤井良広(環境金融研究機構)