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タラノア対話:取り組み強化に向けたメッセージの共有に向けて

外部リンク Photo by IISD/ENB | Kiara Worth

ドイツ・ボンで開催された気候変動交渉会合(4月30日~5月10日)において、タラノア対話の準備セッションが5月6日に開かれました。タラノア対話は、気温上昇を産業革命前に比べ1.5℃~2℃に抑えるというパリ協定の長期温度目標の達成に向けて、交渉を離れて、さまざまな国や都市・自治体、企業等がストーリー(経験やアイディア)を共有し、共感を育むことで、それぞれの取り組みを強化していくことを目指しています。今回のタラノア対話では、のべ250名以上の参加者が7つのグループに分かれ、「我々はどこにいるのか?」「どこへ行きたいのか?」「どのように行くのか?」という問いかけに対し700以上のストーリーを共有しました。

我々はどこにいるのか?

この問いかけに関しては、多くの参加者が現状の温室効果ガスの排出量やその大気中濃度について言及しました。同時に、異常気象、水やエネルギーへのアクセスの悪化、安全保障への影響、海面上昇による移住など、具体的な気候変動の悪影響が顕在化していることも語られました。対話に先立って、ハワイ・マウナロア観測所が2018年4月のCO2濃度が、60年以上にわたる観測史上初めて410ppmを突破したと発表していたこともあり(産業革命前は280ppm)、多くの参加者が問題の緊迫性、取り組みの緊急性を訴えました。

その一方で、先進国、途上国、国の大小を問わずに参加した国々からは、排出削減政策、関連する法整備、省庁間の協力体制の構築、長期戦略の策定、伝統的知識利用などに関して具体的な取り組みが紹介されました。こうした積極的な取り組みは、政府によるのみではなく、企業や自治体、市民団体など、多様なアクターからも紹介されました。例えば、企業版2℃目標でもある「科学的根拠に基づく排出削減目標(SBT)」を採用する企業数が大幅に増えていることが紹介されました。先進国vs途上国の対立構図に陥りやすい国際交渉ですが、さまざまアクターがそれぞれの取り組みを真摯に進めていることについて具体例をもって語り合うことは、参加者の間に建設的な雰囲気を作りだしたようです。

どこへ行きたいのか?

目指すべき将来のビジョンについて語りあいました。パリ協定の長期温度目標(2℃目標や1.5℃目標)や、それに即した脱炭素化、炭素中立化、気候耐性の強化を目指すべきとの声が多くきかれました。また、持続可能な開発や経済発展、人間開発、生態系など、幅広い側面を含んだ包括的・網羅的なビジョンの重要性や地域的取り組みやジェンダー・若者の参画についても扱うことの必要性も言及されました。

さらに、各国、都市・自治体、企業が掲げる中期・長期的な排出削減目標、およびそれらに向けた戦略や計画の重要性も語られました。こうしたストーリーは、次の問いである「どうやって行くのか?」ともオーバーラップする点でした。印象的だったのは、排出削減を中軸に据えるのではなく、社会全体の開発計画や国家戦略の中で大幅な排出削減や脱炭素化・炭素中立化を目指すという姿勢の重要性を多くの参加者が語ったことです。

どうやって行くのか?

現状を確認し、目的地を共有した後は、どのようにそこへ到達するのかについて語りあわれました。多くの参加者が、すべてのアクターが共に行動することにコミットすることが不可欠であることを指摘し、そうした行動を引き出すための政治的リーダーシップの重要性が語られました。また、一部の参加者からは、カーボンプライスなどの経済的措置の重要性も語られました。さらに、技術革新やそれを生み出すための国際協力の重要性、民間資金の動員を促す公的資金の活用などについての指摘もありました。野心的な気候変動政策が不可欠であり、その策定・実施にあたっては社会的正義、包括性、参加が重要な要素となること、連帯や信頼醸成に基づく国際および国内レベルの施策・協力が必要であるということが、今回語られたさまざまなストーリーの根底に流れていました。

脱炭素化に向けた転換は、社会の仕組みや経済構造を大きく変えていく必要があり、そのような転換を「誰も取り残されない」形で成し遂げていこうという考え方も共有されました。「我々はどこにいるのか?」のセッションにおいて、中国では石炭火力発電からのシフトにより110万人におよぶ雇用問題が発生しているとのストーリーが語られました。このように、脱炭素化に向けた大転換は決して平坦なものではなく、どのようにスムーズなものにするかは、今後、多くの国が直面する課題となるでしょう。今後、転換の成功例の共有が期待されます。

今後に向けて

今回のタラノア対話は、幅広いストーリーの共有により有意義な議論が出来たとの評価を多くの参加者から得ることができました。こうした形式による対話を継続すべきとの声もありました。国連気候変動枠組条約の事務局は、3週間後をめどに、今回の議論をとりまとめた統合報告書を発表することになっています。そして、本年10月末期限の2回目のインプット受付を経て、COP24では閣僚級レベルの政治レベルのタラノア対話が開催されることになっています。

タラノア対話は、パリ協定のもとで2023年以降に5年毎に開催される全体の進捗評価(いわゆるグローバル・ストックテイク)の先駆け的イベントとしても注目されていました。さまざまなアクターがそれぞれのストーリーを語りあいましたが、実際には、賛同しかねるものもあったかもしれません。しかし、お互いを非難したり、批判的な目で見たりするのではなく、理解しあうことでそうした状況を乗り越えようとすることが求められました。このタラノア精神をグローバル・ストックテイクにも引き継いでいくことが大切になるでしょう。

ただし、現状の取り組みを引き上げるための方策を探り、そのために必要となる政治的な機運を高めていくという、タラノア対話の究極的な目的に照らすと、今回のような対話だけでは不十分だと思われます。さまざまなストーリーが言いっ放しで終わらないためには、それを受け取る受け皿と、機運を増幅するようなプロセスが必要となります。この点において、EUや南米諸国、ビジネス団体が、それぞれの域内や国内、組織内でタラノア対話を開催すると表明したことは注目されます。日本においても、タラノア精神に立つ「車座」式の対話を開催し、さまざまなステークホルダー間のストーリー紹介、共有がおこなわれることが期待されます。その中で、気候変動に対する取り組みの強化につながるような力強いメッセージの抽出・共有が求められます。